
訪問指導記録は、監査報告書ほど大きな書類ではありません。それにもかかわらず「後回しになりがちな書類」として挙げられることが多い書類です。理由は分量ではなく、現場で取った情報の形と、様式が求める情報の形が一致していないことにあります。この記事では、現場のメモが訪問指導記録になるまでを4つの工程に分けて整理します。
現場の症状:メモは取ったのに、様式の欄が埋まらない
訪問指導について、監理団体の職員の方から次のような話を伺います。
- 現場では熱心にメモを取ったが、後で様式に向かうと該当する欄が埋まらない
- メモには書いていないが、様式には書かなければならない項目がある
- 逆に、メモには書いたが、どの欄に入れるべきか分からない内容がある
- 前回の訪問で何を指導したかを思い出せず、過去の記録を探すことになる
- 結果として、記憶が新しいうちに書けず、数日後に曖昧なまま埋めることになる
特に問題なのは、3つ目と4つ目です。現場では確かに把握していたのに、記録として残らなかった情報が生まれます。そしてこれは、次の巡回や監査報告書の作成のときに、材料が足りないという形で表面化します。
構造の説明:記録は「取る前」に決まっている
この状況が起きる原因は、現場での注意力や記憶力ではありません。何を取るべきかを決める工程が、現場に行く前に置かれていないことです。
訪問指導記録の様式には、書くべき項目が定まっています。しかし現場では、目の前で起きていることや、その場の会話の流れに沿ってメモを取ります。この2つは自然には一致しません。一致させるためには、現場に行く前に「今回この企業では、様式のどの欄に対応する情報を取るのか」を決めておく必要があります。
もう1つの構造的な問題は、前回との関係が現場では見えないことです。訪問指導は1回きりの行為ではなく、前回の指導の結果を確かめる連続した行為です。ところが前回の記録は事務所のファイルや別のシステムにあり、現場では手元にありません。そのため「前回何を言ったか」を思い出しながら話すことになり、確認が漏れます。
育成就労制度への移行にともない、監理支援機関としての指導記録の一貫性がこれまで以上に見られることが想定されます。1回ごとの記録の質だけでなく、記録どうしがつながっているかが問われる形です。
工程の分解:現場メモから訪問指導記録までの4工程
さくら協同組合(架空)が株式会社サンプル製作所(架空)を訪問する場面で、工程を分けてみます。
① 記録項目の事前設計
現場に行く前に、今回何を取るのかを決めます。様式の必須項目に加えて、前回の指導事項、この企業に固有の確認点、実習生から寄せられていた相談の内容などから、取得すべき項目のリストを作ります。
この工程がないまま現場に行くと、②以降がすべて場当たり的になります。逆に、ここが整っていれば、現場で何を聞き忘れているかがその場で分かります。
② 現場での取得
設計した項目に沿って、現場で情報を取ります。実習生のAさんとの面談、受入企業の担当者との会話、現場の様子の確認などがこれにあたります。**メモ、写真、音声のいずれの形でも構いません。**この工程の目的は、形を整えることではなく、必要な情報を落とさずに持ち帰ることです。
③ 様式への割り振り
持ち帰った情報を、訪問指導記録の様式の各欄に振り分けます。1つの会話の内容が複数の欄にまたがることも、逆に複数の場面から1つの欄を組み立てることもあります。ここは正確さが要りますが、判定は含まれません。
④ 前回との突合
今回の記録を、前回の訪問指導記録と並べます。前回の指導事項がどうなったか、状況が改善したか、変わっていないか、新しく生じた点はあるかを確認します。ここで拾えた差分は、次の監査報告書(22号)の材料にもなります。
境界線:どこが機械側で、どこが人側か
機械側に移せる工程は、①記録項目の事前設計の下案づくり、③様式への割り振り、④前回との突合です。
①については、過去の訪問指導記録、直近の届出、実習生の在留期限、前回の指摘事項といった材料から、「今回確認すべき項目」の下案を組み立てることができます。人が行うのは、その下案に対して「これは今回は不要」「ここを厚く見たい」と手を入れる部分です。
③と④は、判定を含まない作業です。特に④の突合は、前回の記録と今回の記録を機械的に並べる作業であり、人が記憶をたどるより確実です。
人側に残る工程は、②現場での取得です。ここは移せません。
実習生のAさんが「特に問題ありません」と答えたときの声の調子、株式会社サンプル製作所の担当者が話題を変えたタイミング、寮を見たときに感じた違和感。これらは、その場にいる人にしか取得できません。実習生・受入企業との面談における判断は、人が持つべき工程です。 機械は、その人が現場に集中できるように、事前の設計と事後の整理を引き受ける側に回ります。
次の一歩
訪問指導記録は、単独で完結する書類ではありません。次の訪問の材料になり、監査報告書(22号)の材料になり、届出の判断材料にもなります。だからこそ、記録の形が整っているかどうかが、後の工程すべてに影響します。
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