
「うちの様式には合わないでしょう」
システムの説明を聞いた監理団体の方から、最も多く返ってくる反応がこれです。
さくら協同組合(架空)の事務局長も、同じことを言いました。「うちは訪問指導記録も監査報告書も、長年かけて自分たちで作った様式でやっている。標準の様式に合わせろと言われるなら、導入する意味がない」。
これはもっともな話です。監理団体の様式は、思いつきで作られたものではありません。過去に受けた指摘、担当者が気づいた抜け、受入企業とのやり取りで必要になった項目が、何年もかけて積み重なった結果です。様式そのものが、その団体のノウハウになっています。
しかも、様式を変えると連鎖します。受入企業に渡している用紙も変わる。過去の記録と項目が揃わなくなる。職員が慣れた並び順が変わる。書類を作る時間を減らすために導入したはずが、しばらくは全員の作業が遅くなる。
だから「様式は変えられない」は、抵抗ではなく、正当な業務判断です。
問題は、多くのシステムが、様式を作り替えることを前提にしていることです。標準テンプレートに情報を流し込む設計になっていて、独自様式は「エクスポートして手で貼り付けてください」となる。それでは、書類を作る手間はほとんど減りません。
様式は変えなくていい。変えるのは、様式の読み方
ここで整理すべきなのは、AIが書類を作るときに、様式の何を必要としているかです。
人が書類を書くとき、様式を見て何をしているかを分解してみます。
まず、どの欄に何を書くべきかを読み取ります。「訪問年月日」の欄には日付を、「指導事項」の欄には指摘した内容を。次に、その情報をどこから持ってくるかを判断します。訪問年月日は手帳から、実習生の在留期限は管理表から、前回の指導事項は前回の記録から。そして、埋めた結果を様式の形に収めます。
このうち、様式そのものが持っている情報は、最初の一つだけです。「どの欄に、どういう種類の情報が入るか」。それ以外は、様式の外にある情報を、人が集めて当てはめているにすぎません。
つまり、AIに必要なのは様式の見た目を作り直すことではなく、「どの欄に何が入るか」という対応関係を一度だけ教えることです。対応関係さえ与えれば、様式のレイアウトも、項目の並び順も、団体独自の言い回しも、そのまま使えます。
これは新しい発想ではありません。差し込み印刷と同じ考え方です。文書のレイアウトは触らず、埋める場所だけを指定する。違うのは、埋める内容を機械的な置換ではなく、記録の内容から組み立てる点だけです。
言い換えると、変えるのは様式ではなく、様式の読み方です。
工程を3つに分ける
具体的な手順です。
1. 現行様式の棚卸し
最初にやるのは、いま実際に使っている様式を、全部机の上に出すことです。
これは想像以上に発見のある作業です。多くの団体で、次のような状態が見つかります。
- 同じ目的の様式が2種類あり、担当者によって使い分けられている
- 数年前に改訂したはずの様式が、旧版のまま使われ続けている箇所がある
- 22号関連の書類と、団体独自の記録が、内容の一部で重複している
- 誰も使っていない欄が残っている
棚卸しの目的は、この状態を整理することではありません。いま何を使っているかを、正確に把握することです。使われていない様式を対象に含めても意味がありませんし、逆に、担当者しか知らない様式が抜けると、そこだけ手作業のまま残ります。
対象を決めるときの目安は、作成頻度と作成にかかる時間です。年に一度の書類より、毎月何十通も作る訪問指導記録のほうが、先に手を付ける価値があります。すべての様式を一度に扱おうとせず、量の多いものから順に進めるほうが、早く効果が出ます。
この段階では、まだ何も作り替えません。並べて、数えて、優先順位をつけるだけです。
2. 固定項目と可変項目を分ける
次に、それぞれの様式の中を2種類に分けます。
- 固定項目 — 書類が違っても内容が変わらない部分。様式のタイトル、団体名、注記文、欄のラベル、定型の但し書きなど
- 可変項目 — 書類ごとに中身が変わる部分。実習生の氏名、訪問年月日、受入企業名、在留期限、指導事項の記載内容など
この分離が、様式をそのまま使うための鍵になります。固定項目は一度定義すれば以後触りません。可変項目だけが、書類ごとに埋まる対象になります。
さらに、可変項目は性質でもう一段分かれます。
- すでにどこかにある情報 — 実習生の氏名、在留期限、配属先、受入企業名。これらは登録済みの情報から持ってこられます
- その場で新しく生まれる情報 — 今回の訪問で何を見たか、誰と話したか、何を指摘したか。これは訪問した人しか持っていません
前者は自動で埋まります。後者は人が入れます。この線引きを、様式ごとに事前に決めておくことが、二つ目の工程の中身です。
やってみると、多くの様式で、欄の半分以上が「すでにどこかにある情報」であることが分かります。毎回書き写している部分がそれです。ここが自動で埋まるだけで、作成時間はかなり変わります。
3. 出力先を指定する
三つ目は、埋めた結果をどこに出すかです。
ここで避けたいのは、画面上では出来上がっているのに、実際に提出する形にするために手作業が必要という状態です。せっかく中身が揃っても、コピーして貼り付けて体裁を整えるなら、手間は残ります。
そこで、団体が現に使っている様式ファイルそのものを出力先に指定します。既存のファイルのどの位置にどの項目が入るかを対応づけておき、そこに直接書き込む形にします。出てくるものが、いつも使っている様式そのものであれば、職員は新しい形式を覚える必要がありません。
同時に、出力したものがどの状態にあるかも指定します。下書きとして出るのか、確認待ちとして出るのか。ここは前回の記事で触れた、下書き・確認待ち・確定の分離とつながります。様式が埋まったからといって、それが提出できる書類になったわけではありません。
AIがやること、人がやること
境界線を明確にします。
AIに任せられること
- 登録済みの情報を、指定された欄に埋める — 実習生の氏名、在留期限、配属先、受入企業名、前回訪問日といった、すでにどこかにある情報を該当欄に流し込む
- 様式の形式を保ったまま出力する — レイアウト、項目の並び、団体独自の文言を変えずに、可変項目だけを埋めた状態で出す
- 埋まっていない欄を示す — 人が入れるべき欄のうち、まだ空のものを洗い出す
- 前回の記載を参照用に並べる — 同じ実習生、同じ受入企業について、前回どう書いたかを横に置く
- 在留期限や届出の期日を、様式の欄と突き合わせる — 記載された期限と管理情報が食い違っていないかを機械的に照合する
人にしかできないこと
- 様式の中身が、その団体にとって何を意味するかを決める — なぜこの欄があるのか、この欄に何を書くべきかは、様式を作った経緯を知る人にしか判断できません。棚卸しと項目の分離は、AIが代わりにやる作業ではなく、団体が決める作業です
- その場で生まれた情報を入れる — 株式会社サンプル製作所(架空)を訪問して何を見たか、実習生Bさんとどんなやり取りをしたか。これは行った人の記憶と判断からしか出てきません
- 指摘の書き方を決める — 同じ事実でも、どこまで書くか、どういう強さで書くかは、これまでの経緯と今後の関係を踏まえた判断です
- 様式を改訂するかどうかを判断する — 棚卸しで重複や不要な欄が見つかったとき、それを直すかどうかは団体の判断です。AIが「整理したほうがいい」と提案する話ではありません
- 確定させ、提出する — 埋まった様式を確認し、これで出すと決める
繰り返しになりますが、確定と提出は人が行います。様式が完璧に埋まって出てきたとしても、それは下書きです。育成就労への移行にともなって様式の意味づけが変わりうる時期であればなおのこと、記載内容が現在の運用に合っているかを確認できるのは人だけです。
AIは様式を埋めますが、様式を決めません。 どの様式を使うか、その様式に何を書くべきかは、監理団体が持ち続ける判断です。
様式はそのまま、手間だけを減らす
「独自様式のままAIに書かせるには何が必要か」への答えは、次の3つです。
いま使っている様式を正確に把握すること。固定項目と可変項目、さらに可変項目の中で「すでにある情報」と「その場で生まれる情報」を分けること。そして、出力先を既存の様式ファイルそのものに指定すること。
この3つが揃えば、様式を作り替える必要はありません。職員は今までと同じ書式を見ながら、埋まっていない欄だけを埋めることになります。変わるのは作業量であって、書類の姿ではありません。
Ristaは、標準様式への統一を求めない前提で設計しています。団体ごとに異なる訪問指導記録や監査報告書の様式を、そのまま出力先として扱います。
実際にどのように様式を読み込み、どこまで埋まるのかについては、起草サンプルをご用意しています。お使いの様式に近いものでご確認いただけますので、詳しくは起草サンプルをご覧ください。


