
導入したのに、一人しか使っていない
AI導入の相談で、実は最も切実な論点がこれです。
さくら協同組合(架空)でも、理事会での議論の最後にこの質問が出ました。「仮に入れたとして、うちの職員が使えるのか」。事務局の平均年齢は50代半ば。パソコンは使いますが、Excelの関数を書ける人は数人です。「AIに指示を出す」と言われても、何のことか分からない、というのが正直なところでした。
この不安は、実際によく的中します。導入したものの、使いこなせるのは若手の一人だけ。その職員が対応した書類だけが速くなり、他の職員は今まで通り。結果として、業務は速くならず、その一人に負荷が集中します。そして、その職員が異動や退職でいなくなると、仕組みごと使われなくなります。
これは職員の能力の問題ではありません。道具の設計の問題です。
なぜ「使える人」と「使えない人」に分かれるのか
原因ははっきりしています。多くのAIツールが、利用者に指示文を書かせる設計になっているからです。
対話の入力欄があって、そこに「〇〇について、△△の形式で書いてください」と打ち込む。この形式では、出てくる結果が入力した文章の質に左右されます。うまく書ける人は良い結果を得られ、そうでない人は的外れな結果を受け取る。同じ道具を使っているのに、成果が人によって違う状態になります。
さらに悪いのは、うまく書けなかったことに気づきにくい点です。何かしらの文章は返ってくるので、「これでいいのかな」と迷いながら手直しする。結局、自分で書いたほうが早い、となって使われなくなります。
構造として見ると、これは判断を利用者に押し付けている状態です。何を指示すべきか、どういう情報を渡すべきか、出てきたものが妥当かどうか。本来は道具の側で決めておけることを、毎回、使う人に考えさせています。
監理団体の業務にこれを持ち込むと、さらに問題が出ます。訪問指導記録の書き方、監査報告書に載せる項目、22号関連の書類の扱いは、団体として定まっているはずのものです。それを職員一人ひとりが指示文で表現するとなると、団体の運用が、書く人の表現力で揺れることになります。書類の水準を揃えたいのに、揃わなくなる。
だから、目指すべき方向は「職員にAIの使い方を教える」ことではありません。指示文を書く必要がない状態を作ることです。
工程を3つに分ける
1. 指示文を書かせない
まず、対話の入力欄を業務の入口から外します。
代わりに置くのは、やることが決まっている操作です。訪問指導記録を作る、監査報告書を起草する、期限が近い実習生の一覧を出す。それぞれが独立した操作として存在し、押せば決まった処理が始まる。何を書けばいいか考える場面をなくします。
このとき、「何を指示するか」は団体として一度決めて、仕組みの側に固定します。訪問指導記録に何を含めるか、どういう文体で書くか、どの情報を参照するかは、団体の運用として定めるべきことです。それを職員に毎回入力させるのではなく、あらかじめ組み込んでおきます。
結果として、職員がやることは「訪問指導記録を作る」を選び、必要な情報を入れることだけになります。AIに詳しいかどうかは、関係がなくなります。
これは機能を制限しているように見えますが、実際には逆です。選択肢を減らすことで、誰が使っても同じ水準の結果が出るようにしています。書類の水準を団体として揃えたいなら、この方向しかありません。
2. 入力を現場作業に埋め込む
次に、情報を入れるタイミングを設計します。
うまくいかない形は、「あとでまとめて入力する」です。訪問から戻って、席に着いて、システムを開いて、思い出しながら入力する。この形は、必ず後回しにされます。訪問が続く時期は特にそうです。そして溜まった入力作業が、月末にまとめて襲ってきます。
そこで、入力を、今やっている作業の中に置きます。訪問先で使うメモが、そのまま入力になる。受入企業から受け取った資料の確認が、そのまま登録になる。実習生からの相談を記録する場面が、そのまま入力の場面になる。別作業として増やさないのが要点です。
さらに、入力する項目は絞ります。前の記事で触れた「すでにどこかにある情報」と「その場で生まれる情報」の区別がここで効きます。実習生の氏名や在留期限、受入企業名は、すでに登録されているものを使います。職員が入れるのは、その場に行った人しか持っていない情報だけです。
入力欄が20個あると、人は入力しません。3個なら入力します。この差が、運用が回るかどうかを分けます。
3. 確認を定型化する
三つ目は、出てきたものをどう確認するかです。
「内容を確認してください」とだけ言われると、何をどう見ればいいのか分かりません。慣れた職員は要点を見ますが、そうでない職員は全文を読み直すことになり、結局、自分で書いたほうが早くなります。あるいは、確認せずに通してしまいます。
そこで、確認する場所と順番を、あらかじめ決めておきます。どの欄を見るか、何と突き合わせるか、何が揃っていれば確認済みとするか。これが定まっていれば、誰がやっても同じ確認になります。
具体的には、次のような形になります。自動で埋まった欄と、人が入れた欄が区別されている。前回の記載と変わった箇所が示されている。埋まっていない欄が明示されている。在留期限や届出の期日など、他の情報と突き合わせるべき箇所が並べて表示されている。
確認を「注意深く読むこと」から「決まった場所を見ること」に変えるのが、この工程の目的です。注意力に依存する運用は、忙しい時期に崩れます。監理団体の業務は、忙しい時期に書類が集中する性質を持っています。
そして、確認の最後に確定の操作があります。ここは定型化しません。定型化するのは確認の手順であって、確定の判断ではありません。
AIがやること、人がやること
境界線を明確にします。
AIに任せられること
- 決まった処理を、決まった手順で実行する — 職員が選んだ操作に対して、あらかじめ定められた内容で下書きを作る
- 登録済みの情報を自動で埋める — 実習生の氏名、在留期限、配属先、受入企業名、前回訪問日を該当欄に流し込む
- 確認すべき場所を示す — 埋まっていない欄、前回から変わった箇所、他の情報と食い違っている箇所を明示する
- 入力の抜けを指摘する — 必要な項目が入っていない場合に、その場で示す
- 期限を機械的に監視する — 在留期限や届出の期日が近づいているものを一覧にする
人にしかできないこと
- その場に行った人しか知らない情報を入れる — 株式会社サンプル製作所(架空)を訪問して何を見たか、実習生Aさんがどんな様子だったか。ここが入力の中心であり、代替できない部分です
- 示された確認箇所を見て、事実と合っているかを判断する — 「前回と変わっています」と示されたとき、それが正しい変化なのか、入力の誤りなのかを見分けるのは人です
- 団体としての運用を決める — どの操作を用意するか、何を自動で埋めるか、どこを確認箇所とするか。これは仕組みを導入する側が決めることで、AIが提案する話ではありません
- 例外を扱う — 定型に収まらない事案が来たとき、それを定型で処理しないと判断すること。監理支援機関としての実務では、これが起きます
- 確定させ、提出する — 確認を終えて、これで出すと決める
ここでも、確定と提出は人が行います。確認を定型化しても、確定は定型化しません。手順を揃えることと、判断を機械に渡すことは別のことです。
むしろ、確認の手順を定型化するのは、確定の判断に集中できるようにするためです。どこを見ればいいか分かっていれば、見るべき場所をきちんと見られます。全文を漫然と読み直すより、そのほうが確実です。
詳しくないままで回る、という状態
「AIに詳しくない職員でも運用が回る条件」への答えは、次のようになります。
指示文を書く場面をなくすこと。入力を今やっている作業の中に埋め込み、入れる項目を絞ること。確認を、注意深さではなく決まった手順で行える形にすること。
この3つが揃えば、AIに詳しいかどうかは業務に影響しなくなります。職員がAIを学ぶのではなく、AIを意識しなくても仕事が終わる状態が目標です。
逆に、この3つが欠けたまま導入すると、使える人と使えない人に分かれます。そして、使える人に負荷が集中し、その人がいなくなった時点で仕組みごと止まります。属人化を解消するために入れたものが、新しい属人化を生むという結果になりかねません。
Ristaは、職員が指示文を書く前提を持たない設計にしています。どの操作を用意し、どこまで自動で埋め、どこを確認箇所とするかは、団体ごとの運用に合わせて定めます。
実際の画面と操作の流れ、確認の手順がどう見えるかについては、ウェビナーでご説明しています。事務局の方に実際の使用感を見ていただく形にしていますので、詳しくはウェビナーでご確認ください。


