
受入企業が10社から30社に増えたとき、事務局の負荷は3倍になります。当たり前のように見えますが、多くの業種ではこうはなりません。取引先が増えれば一件あたりの手間は下がる、というのが一般的な感覚です。監理団体の業務でそれが起きにくいのはなぜか。この記事では、その理由を実務の単位まで分解します。
1. 現場で起きていること
受入企業が順調に増えている団体で、次のような状態をよく伺います。
- 職員を1人増やしたが、体感の余裕が変わらない
- 監査や訪問指導の日程を組むだけで、月の初めが埋まる
- 「この企業の前回の指摘事項は何だったか」を思い出すのに時間がかかる
- 繁忙の波が読めず、突発の対応が入ると全体がずれる
これらは個々の職員の処理速度の問題ではありません。むしろ、業務に慣れた職員ほど手一杯になっている場合があります。増えているのは難しい仕事ではなく、同じ形の仕事の件数だからです。
2. なぜこうなるのか — 構造の話
監理団体の主要な業務は、受入企業の数に正比例します。
監査は企業ごとに実施します。訪問指導は事業所ごとに行います。監査報告書は企業ごとに作ります。在留期限は実習生ごとに管理します。届出は案件ごとに出します。どれも、企業が1社増えれば、そのぶん一式が丸ごと増える構造です。
一般的な業務では、件数が増えると一件あたりのコストが下がります。手順が定型化し、まとめて処理でき、経験が効いてくるからです。ところが監理団体の業務では、この効果が働きにくい理由が三つあります。
第一に、内容が企業ごとに違います。 業種が違えば労働環境も違い、確認すべき点も変わります。株式会社サンプル製作所で見るべきことと、別の受入企業で見るべきことは同じではありません。監査報告書の様式は共通でも、中身は毎回埋め直しです。
第二に、時期を揃えられません。 在留期限も、監査の周期も、届出の期日も、企業ごと・実習生ごとにばらばらに来ます。「今月はA社とB社をまとめて処理する」という組み方が、期日の側から制約されます。
第三に、記録の参照が必要です。 今回の監査で何を見るかは、前回の監査で何を指摘したかによって決まります。訪問指導記録も、前回からの継続として書きます。つまり一件の作業のたびに、過去の記録を探す作業が付随します。この探す時間は、企業数が増えるほど長くなります。 母集団が大きくなるからです。
3. 負荷がどこに溜まるのか
「忙しい」を分解すると、性質の違う三つの詰まりが見えてきます。
① 1件あたりの手数は減らない
受入企業が1社増えたときに増える作業を並べると、次のようになります。
- 定期の監査と、その報告書の作成
- 訪問指導と、訪問指導記録の作成
- 実習生ごとの在留期限の管理
- 各種届出の作成と提出
- 企業からの相談・照会への対応
- 実習生からの相談への対応
このうち、まとめ処理で軽くなるものはほとんどありません。監査を2社分同時に実施することはできず、報告書を2社分1枚で書くこともできません。企業数 × 一式 が、そのまま業務量になります。
② 企業数=負荷、という直結
多くの業務では、規模が増えても「管理する側」の負荷は緩やかにしか増えません。仕組みで吸収できるからです。しかし監理団体では、企業数の増加がほぼそのまま負荷の増加になります。
この直結を強めているのが、期日の分散です。仮に全社の監査時期が揃っていれば、繁忙期に集中させて処理する組み方ができます。実際には、実習生の在留期限も、企業ごとの監査周期も、届出の期日もばらばらです。結果として、事務局は常に「今週の期限」と「来週の期限」に対応し続ける状態になります。まとまった時間が取れないため、業務の見直しに着手する余裕も生まれません。
さらに、企業数が増えると相談・照会の総量も増えます。これは予定を立てられない種類の作業で、突発的に入ってきます。予定作業の密度が上がっているところに突発が重なると、全体がずれます。
③ 人員追加では解けない理由
「人が足りないなら人を増やす」は自然な発想ですが、この構造では効きにくい理由があります。
引き継ぎのコストが高いからです。 新しい職員が担当を持つには、その企業の過去の経緯を把握する必要があります。前回の監査で何を指摘したか、どの実習生がどういう状況か、企業の担当者とどういうやり取りをしてきたか。これらの多くは、記録に残っていても探しにくい形で散らばっているか、既存職員の記憶の中にあります。
そのため、人を増やした直後は、既存職員が説明に時間を取られて、全体の処理量が一時的に下がります。 立ち上がるまでの期間、増員は負荷を増やす側に働きます。
もう一つの理由は、増えている作業の多くが、人を増やしても減らない種類だからです。 記録を探す時間、様式を埋める時間、期限を数える時間は、担当者が増えても一件あたりの時間は変わりません。人数に比例して総量が処理できるようになるだけで、無駄そのものは残ります。育成就労への移行で確認項目が増える局面では、この残った無駄が効いてきます。
4. どこまでを機械に任せ、どこからを人がやるべきか
企業数に比例して増える作業のうち、性質が二つに分かれます。
機械に任せてよいのは、件数が増えても判断が変わらない作業です。
- 全受入企業の監査時期、全実習生の在留期限を、期日の近い順に一覧にすること
- 「この企業の過去3回の監査報告書と訪問指導記録」を、探さずに取り出せる状態にすること
- 監査報告書や届出の下書き — 過去の記録から転記できる欄を埋めた状態にすること
- 前回の指摘事項を、次回の訪問の前に自動で提示すること
これらは件数が10倍になっても、判断の質が変わらない作業です。むしろ件数が増えるほど、人がやると抜けが出やすくなります。
人がやるべきなのは、件数ではなく関係で決まる作業です。
さくら協同組合の職員が株式会社サンプル製作所を訪問するとき、実質的な価値は、書類を確認することではなく、現場を見て、実習生のBさんと話し、企業の担当者と関係を保つことにあります。Bさんが職場に馴染めているかどうかは、記録には現れません。何度か会って、前回との違いに気づいて、初めて判断できることです。
企業が30社になったとき、この面談の質を保てるかどうかが、監理団体としての差になります。ところが実際には、企業数が増えるほど、面談以外の作業に時間が取られ、一件あたりの面談にかけられる時間が短くなります。 これは構造が逆を向いている状態です。
私たちが考えているのは、企業数に比例して増える定型作業を機械側に寄せて、面談や関係構築のように、人にしかできない部分の時間を守ることです。 人が、人にしかできないことに集中できる状態にするというのは、そういう意味です。
5. 自団体の負荷を分解するには
自団体で何にどれだけ時間がかかっているかは、思っているものとずれていることが少なくありません。「監査が大変」だと感じていても、実際に時間を取っているのは監査そのものではなく、その前後の記録探しと報告書作成である、という場合があります。
Ristaでは、監理団体の業務を工程単位に分解し、どこにどれだけ時間がかかっているかを可視化する30分のオンラインデモをご用意しています。何を機械に寄せられて、何は人が持つべきかの線引きは、このデモの結果を見てから決めるものだと考えています。
詳しくは30分のオンラインデモでご確認ください。


